『総入れ歯(総義歯)を創る時の
歯科医師の努力と苦労』
今月からは、前々月に予告したように総入れ歯(総義歯)についてお話したいと思います。一本でも歯が残っていれば、その歯にバネ(維持装置)をかける事により、まがりなりにも、何とか落ちたり動いたりしない入れ歯を作れるのですが、一本の歯も残っていない総義歯の場合は、ごまかしがきかないので、そこに歯科医の苦労があるのです。まあやりがいがあるといえばあるのですが、報われる事の少ない、どちらかといえば、あまり手掛けたくない仕事です。
特に度重なる保険の治療法改悪の為、約四回の工程で完成させてしまわなければならないので大変です。以前の保険制度でしたら、もう少し工程に余裕があったのですが、現状では治療回数が増える程、不採算になるシステムになってしまいました。泣き言を言っても仕方ないので、いよいよ本題総義歯の作り方に入ります。
先ず一番最初の工程は、型採りです。これでもって入れ歯の大きさがほぼ決まってしまう大事な作業なのですが、十人十色…。患者さんによって歯肉の厚さは一定ではないし、歯肉の下にある骨の状態も異なるし、口を開けている時と閉じている時では、歯肉の状態が変わってきますし、技術が必要なところです。
これが上手くいくと次の工程は、入れ歯の高さを決める作業です。これがまた歯科医泣かせでして、大いにセンスや見る目が必要とされるのです。高さを決定するには、一応の基準があるのですが、最終的には、見た目で決めます。今までの噛み癖や顎関節症のある方、緊張のなかなかとけない方の場合には、大いに苦労しています。
以前の保険制度でしたら、もう一度トライする事が出来たので良かったのですが、今は一発勝負です。このテクニックを修得する為に福島県まで行った事があったのですが、直通の飛行機に乗り遅れてしまい、飛行機と新幹線を乗り継いで行ったのも、今では良い想い出です。
せっかくこうやって苦労した工程も、最後にロウで作った状態から、最終的なレジン(プラスチック)に置き換える工程の時に、変形やヒズミが出てしまい、その誤差を補修するのがまたまた大変なのです。
こうやって苦労し完成した総義歯を患者さんの口の中に収める時が一番緊張します。すんなり安定した状態であればいいのですが、現実はトホホな時も多いです。そしてこれからが、患者さんにある程度まで満足してもらうまでの長い長い調整の作業が始まるのです。私の感じとしては、良く出来た総義歯でも自分の歯があった時の3〜4割の機能回復が出来れば上出来だと思います。
次回は、予算は掛かりますが、動かない痛くないかみしめる事の出来る入れ歯を創る2・3の方法をお話したいと思います。それでも限界があり、未だに私自身満足出来る総義歯を創れた事はありません。陽暮れて路遠しの心境です。
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